内臓オステオパシーは内臓の生理的な動きを回復させるために行うものです。胃腸の調子が悪かったり、婦人科系のトラブルがあったり、膀胱炎を繰り返すような体質になっているのは「内臓の生理な動き」が阻害されているせいではないか?という観方をしているからです。

体調を崩しても、身体は自分で悪いところを発見し自分で治すというメカニズムを生理的な身体は持っています。これは自然治癒力とも呼ばれています。しかし「内臓の正常な動き」が阻害されている状態では自然治癒システムが上手く機能せず、体調を整えることができなくなってしまうのです

そこで内臓オステオパシーは「内臓の生理的な動き」を回復させて自然治癒システムを取り戻そうとします。

内臓の正常な動きとは

一見すると静止している人でも、体内では何らかしら動いて活動を続けています。心臓はビートを刻み、腸はうねり、筋肉は収縮と弛緩を繰り返している。生きているということは細胞一つ一つが絶えず運動しているということでもあるのです。肝臓、膵臓、卵巣、甲状腺…など全て動き続けており、静止しているものは一切ありません。

このような臓器の生理的動きは「モビリティ」と「モチリティ」という2つのタイプに分類されています。

モビリティ

モビリティとはその内臓の外から力が加わって動くことができる能力です。大抵、初めて自転車に乗る時は、誰かに後ろを押してもらいますよね。自分で漕いでいなくても後ろから押されることで自転車は動いていくはずです。内臓も他の器官から力が加わって動き続けています。

肺について考えてみましょう。呼吸の度に膨らんだりしぼんだり風船のような動きをしているように見えますが、これは肺みずからが動いているわけではなく、横隔膜や肋骨によって動かされています。

横隔膜や肋骨に引っ張られて肺が膨らんでいるのです。呼吸運動によって動かされている臓器は肺だけではありません。腎臓は1回の呼吸運動ごとに3cmほど上下しています。他にも胃腸、肝臓、子宮、前立腺など全ての腹部臓器は呼吸の影響を受けて上下に動いています。このように呼吸運動はあらゆる臓器を動かしています。この時、それぞれの臓器の動きはモビリティと呼ばれます。

モビリティの動力は呼吸だけではありません。通常の身体運動によっても臓器は動かされています。例えばゴルフスイングのように体をひねった場合、胃は上半身の方についていき、子宮は下半身の方について動いていく。ソファーに腰掛けると腹部内臓は全体的に下へ押し下げられる。臓器が筋肉や骨に付着し固定されているため、このような体の動きによっても臓器の動きが付随してくるのです。

モチリティ

モビリティが「臓器の受動的な動き」であるのに対し、モチリティは「臓器の能動的な動き」です。自転車で言えば、モビリティは誰かに押してもらって動くこと、モチリティは自分で漕いで動くことになります。

モチリティは臓器自体に備わった固有の動きです。それは小さな動きで1分間に7~8回程度の往復する動きを繰り返し行っています。この動きのメカニズムは不明なことが多く未だ議論の余地がありますが、有力な説として胎児期の臓器運動に由来すると考えられています。

胎児期では臓器が発達しながら体内を移動しています。例えば私たちの胃はみぞおちの左側にあるわけですが、最初からずっとそこにいたわけではありません。母親のお腹の中にいた時点で胃は体の中心にありました。発達していく過程で胃は移動して最終的には左の肋骨下あたりに位置します。腎臓は上に移動しているし、小腸はぐるっと一回転している。ほとんどの臓器は生まれるまでには最終的な位置に達していますが、精巣に関しては生後に下へ移動します。

このように胎児から乳児期には各臓器がそれぞれ大移動しているのです。この動きがゼロにならず、成人になっても残存したものがモチリティの動きであると考えられています。