不安症やパニック障害を改善しようと思った場合、お腹の調子を整える必要がある方もいます。

特に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などがある方です。なぜ不安症、パニック障害の改善にお腹の調子をよくしなければならないのでしょうか。

それは、ガストリンという消化ホルモンが脳に作用すると不安や心配などの情動を引き起こす可能性があるからです。詳しく見ていきましょう。


ガストリンと不安

ガストリンとは胃酸を分泌させるホルモンです。腹ペコの時に美味しそうモノを見るとお腹が鳴ったり、みぞおちのあたりに何か感じることがあります。

これはガストリンによって消化管全体が収縮するからです。このようにガストリンは空腹時に分泌され消化管の準備運動をしたり、いつでも胃酸が出せるように準備したりしているのです。

実は近年、この消化ホルモンであるガストリンが不安や心配などの情動に関連していることが分かってきています。

ペンタガストリンという人工的なガストリンを投与すると、それが脳に作用してパニック発作や不安を患うことがあるのです。またガストリンレベルが高い人は不安症や心臓の負担になる可能性があります。

要するに空腹は身体的にも精神的にもストレスである、ということですね。お腹を空かせた状態でレストランが決まらずケンカになるのは優柔不断な彼のせいではなく、ワガママな彼女のせいでもなく、ガストリンのせいなのです。

逆に不安な情動をガストリンレベルを下げて対処しようとすることがあります。つまり不安なときに食に走りたくなるのです。これは高くなったガストリンレベルによって消化管が刺激され何かを食べたくなるからです。食べることによってガストリンレベルは下がり、一時的に不安が緩和されます。

このような反応は赤ちゃんでよく観察できます。何か不快があったときに、お乳を与えると消化管が働き始める。しばらくすると、赤ちゃんのガストリンレベルが低下して落ち着きを取り戻すことができます。

ガストリンとパニック発作

ガストリンレベルが高いと胃腸が苦しくなるだけではなく、何かしらの危機であることを脳にお知らせします。脳は「胃のお知らせ」に突き動かされて危機を感じ不安になります。そして扁桃体という場所が活性化し、今度は「脳からのお知らせ」を体に届けます。

「脳からのお知らせ」を受けた体は緊張しふるえが起こり、過呼吸、動悸、吐き気など特有の症状につながるのです。

つまり胃からのメッセージは、胃腸だけでとどまらず、脳を中継して全身全霊に伝達されるのです。

昔の生理学では「脳が命令する側で、身体が労働者」というヒエラルキーモデルでしたが、どうやらそうではなさそうです。確かに脳は命令する神経システムを持っていますが、脳自体も器官から命令されて働いています。これを内受容システムと言います。

生命にとって恐ろしいことは飢餓。胃腸が不快なのに脳が楽観的では困るのです。不安にさせたり、心配させたり、ときには攻撃的にして食料を確保しなければいけません。

現代人であれば、胃腸の不快が飢餓によるものだとは考え難いことですから、そうなると胃腸の調子自体が悪いのではないか?と考えることができます。